2021.05.07
ソーラーシェアリングの農業事例、収益性・メリット・導入方法まで解説
株式会社アースコム 代表取締役の丸林です。
ソーラーシェアリング参入をお考えの方の不安材料として「収益性はあるのか」「日陰になっても作物が育つのか」「成功実例はあるのか」といったものが挙げられます。
ソーラーシェアリングは日本で始まってからの歴史がまだ浅く、興味はあるものの一歩を踏み出す勇気が持てないという方が多いのも仕方がありません。
今回はそんな不安を払拭するため、ソーラーシェアリングの農業事例を中心に、収益性やメリットデメリットも解説いたします。
目次
ソーラーシェアリングとは?実際の農業事例から学ぼう
ソーラーシェアリングとは、農地に2m以上の高い支柱を立ててソーラーパネルを設置し、パネル下部では農業、パネルで太陽光発電を行い、農業収入と売電収入のWインカム構造を作る営農方法のことです。
ソーラーシェアリングを行うためには、農地の一時転用許可が必要になりますが、ソーラーシェアリングのための許可申請数は増加傾向にあります。
農林水産省によると、許可申請数の2018年度までの累積は1,992件。
5年前と比較すると約21倍にもなります。
各地で行われているソーラーシェアリングの事例をいくつか紹介します。
①事例1・パネル下部で観光農園を営む【五平山農園・千葉県いすみ市】
広大な農地の一区画でソーラーシェアリングを行っている事例です。
パネルを設置していない場所では普通の営農を行い、パネル下部では成木でも背が高くなりにくいブルーベリーを栽培し、観光農園を開いています。
ブルーベリー狩りは夏季に行われますが、ソーラーパネルのおかげで日陰ができると好評のようです。
農家民宿などもされていて、幅広い事業展開を行われているのも特徴的です。
②事例2・法人をつくり、継続的な耕作を計画【(一社)ちば耕援隊】
法人をつくり、複数会員で協力して耕作することで、継続して耕作できるような仕組みづくりが行われています。
発電部分については(株)エスパワーが運営を行って耕作部分は(一社)ちば耕援隊が担い、会員には耕作協力金・年会費が支払われます。
(一社)ちば耕援隊が営農指導などのアドバイスを行うほか、販路も確保。
保育園や学校の児童が農業体験等をすることでの地域活性化も目指しています。
営農のサポートから出口戦略までがしっかりカバーされているのが特徴です。
③事例3・営農は合同会社にお任せして事業展開【千葉エコ・エネルギー】
千葉エコ・エネルギーは太陽光発電設備の設置者で、営農を行うのは千葉エコ・エネルギーも出資して立ち上げた、農業生産法人のThree little birds合同会社です。
こちらの事例では「設置者」「営農者」「土地所有者」がそれぞれ別におり、売電収入は設置者である千葉エコ・エネルギーへ、農業収入と耕作委託料が農業生産法人のThree little birds合同会社へ、耕作地の所有者には土地使用料が支払われています。
このような三者の仕組みを確立することで、それぞれが得意分野を発揮し、不得意分野を補うことができるのです。
以上、3つの事例をご紹介しました。
営農者が自らソーラーシェアリングを行う事例だけでなく、土地を提供して使用料を得るという方法や、法人をつくって複数のメンバーで協力して耕作を行う方法など。
置かれている立場に合わせた、ソーラーシェアリングへの取り組み方法があることが分かっていただけたかと思います。
ソーラーシェアリングでは、米、大麦、小麦、大豆、キャベツ、レタス、ニラ、ショウガ、白菜、ピーマン、ナス、ブドウ、サツマイモ、ジャガイモ、サトイモ、明日葉、小松菜、イチゴ、ブルーベリー、ミカン、ニンニク、落花生、大根、人参、茶、梨、牧草、榊など、実にさまざまな作物が育てられています。
ソーラーシェアリングと相性の良い作物はたくさんあるので、ソーラーシェアリングを始めたからと未経験の作物を作らなければならない、ということはまず無いでしょう。
農業を営みながらのソーラーシェアリング、収益性についても詳しく
ソーラーシェアリングでは農業収入と売電収入が発生します。目安を計算してみましょう。
農林水産省発表のデータでは、北海道を除く都府県の一経営体あたりの経営耕地面積の平均は、2.17ha(平成31年度)で約21,700㎡です。
今回はこちらの数字を使ってご説明します。
初期費用
ソーラーシェアリングでは、作物の成長を妨がないようにするために、ソーラーパネルが影をつくる面積として33%程度が推奨されています。
そのため、21,700㎡の農地では、7,161㎡がソーラーパネルを設置できる農地面積です。
ソーラーシェアリングでは10㎡の面積で0.5kWの発電が行えると言われており、7,161㎡であれば、約358kWとなります。
太陽光発電の設置にかかる平均価格は1kWあたり200,000円と言われているので、358kW×200,000円=71,600,000円が初期費用となります。
売電収入
太陽光発電の売電収入では設備利用率を考慮します。
24時間365日、定格出力で常に発電した場合が設備利用率100%です。
一般的に、10kW以上の太陽光発電所では設備利用率は約13%だと言われています。
設備利用率を使って発電できる時間を計算すると、24時間×365日×0.13=約1,139時間
250kW以上の太陽光発電所の売電価格は入札制度によって決まりますが、今回は2021年度の第11回入札の10.25円/kWを使いますと、358kW×1,139時間×10.25円=約4,179,561円が1年間の売電収入です。
初期費用額が回収できる年数
71,600,000円(初期費用額)÷4,179,561円(年間売電収入)=約17.1年となり、FIT期間である20年の間に初期費用が回収できることがわかります。
農業収入
農林水産省個別経営の1経営体あたりの農業所得を営農類型別に比較してみると、平成30年の年間農業所得は水田作が55.6万円、畑作が286万円、露地野菜作が244万円、施設野菜作が507万円、果樹作が254万円、露地花き作が265万円、施設花き作が442万円となっています。
育てる作物や農地面積、経営規模などによって数値は大きく異なりますので、計算の際には実際の平均収益等から導くようにしてください。
ソーラーシェアリングのメリットデメリット、運用開始までの導入方法
ソーラーシェアリングにはメリットも多いですが、デメリットがあるのも事実。
それぞれご説明します。
【メリット】
- 安定した売電収入が長期間得られる
- パネルでほどよく日陰ができ、農作業がはかどる
- 地目が農地のままなので固定資産税が高くならない
- 相性が良い作物であれば収穫量増が期待できる
- 日当たりが良い土地が多いので売電収入が期待できる
【デメリット】
- 一時転用許可申請を3年おき(条件を満たせば10年)にする必要がある
- 台風などの災害のリスクがある
- 農作業の邪魔になる可能性がある
- 普通の太陽光発電より融資が下りにくい
デメリットが気になるところだと思いますが、厳しかった3年ごとの一時転用許可申請は、条件を満たせば10年ごとの申請で良いことになりました。
これはひとえに、ソーラーシェアリングを始められた先人たちが実績を残し、細かくチェックしなくても大丈夫だと認められたからだと言えます。
台風などの災害のリスクはあるものの、保険で対応できるため、資金的な心配はクリアできるでしょう。
パネルを設置する支柱が農作業時に邪魔になる可能性はありますが、パネルの設置段階で細かい営農計画を立て、農機具が通るスペースなども考慮して設計をしますので、予防策として計画時によく検討することが重要となります。
また、ソーラーシェアリングでは高い支柱を立てるため、初期費用が高くなりやすい傾向にあり、融資が下りにくい場合があります。
しかし、ソーラーシェアリングの肝はあくまでも農業です。
営農でこれまでしっかりとした収穫量や農業収入が得られていれば、大きなリスクとは言えません。
ソーラーシェアリングの運用開始までの流れは以下の通りです。
- 営農計画を立てる
- 発電設備の設置業者・メーカーを決定する
- 農地の一時転用許可申請をする
- 太陽光発電の設置、FIT許可申請、電力会社との契約を行う
手続きについては「ソーラーシェアリングの申請手続きを詳しく!営農計画書の内容も」もご覧ください。
ソーラーシェアリングは未来の日本の農業を支える取り組みである
ソーラーシェアリングでは農業収入に加え、長期間安定して売電収益を得ることができます。
全体の数としてはまだ少ないものの、日本でも導入数はどんどん増えています。
ソーラーシェアリングの参入の方法にはいくつかあり、中には「土地を貸すだけ」といった形で、取り組みの一部に貢献されているケースもあります。
売電収入は農地面積によって異なりますが、初期費用はおよそ17年あれば回収できる予想です。
農業収入もあるため、余剰資金を返済に回せばさらに利回りが上がります。
ソーラーシェアリングではメリットが多いものの、デメリットもあります。
しかし、対策や予防をしっかりとすることでデメリットは回避できるものがほとんどです。
ソーラーシェアリングは通常の太陽光発電よりも手続きの手順が増えてしまいますが、農業を大切にする日本だからこそと思えば納得です。
太陽光発電投資をサポートするアースコムでは、福島の耕作放棄地を利用したソーラーシェアリングへの取り組みも行っております。
ぜひお気軽にご相談ください。